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ロシアのプーチン大統領が、核抑止力部隊を特別警戒態勢に置くよう命じた。
ウクライナ侵略をめぐって、対露制裁を強める米欧諸国を核兵器で恫(どう)喝(かつ)したことになる。危機をあおる常軌を逸した命令で到底容認できない。
戦略核兵器を撃ち合う全面核戦争になれば世界は破滅する。プーチン氏は愚かな挑発をやめるべきだ。
米ホワイトハウスのサキ報道官が「さらなる侵略を正当化するために脅威をでっち上げている」と反発したのは当然である。
プーチン氏は2月19日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの発射演習を実施し、核保有を誇示した。今回、核部隊の態勢強化を命じたのは、ウクライナ侵攻が思い通りに進んでいないからだ。
停戦交渉を前にウクライナを威嚇し、後ろ盾の米欧諸国を牽(けん)制(せい)するねらいや、世界経済を混乱させて西側に一定の打撃を与えるもくろみがあるのだろう。
さらに、核兵器を持たないウクライナの領土や黒海で、ロシア軍が戦術核兵器でウクライナ軍を攻撃したり威嚇したりすることも懸念される。ソ連軍の流れをくむロシア軍は核兵器使用へのハードルが低いが、決して許されない。
忘れてはならないのは日本が中国、ロシア、北朝鮮の核の脅威に直面していることだ。たとえば尖閣諸島や台湾関連の有事で、中国が核恫喝してくる恐れがある。
非核の自衛隊が核を持つ中国の侵略から日本と国民を守るには、米国の核の傘(核抑止力)が十分に機能していることが前提だ。核抑止は安全保障の基盤である。
安倍晋三元首相がフジテレビ番組で重要な問題提起を行った。ドイツなどNATO加盟国の一部が採用している、米国の核兵器を自国に配備して共同運用する「核共有」(ニュークリアシェアリング)政策を、日本も議論すべきだとの考えを示したのである。
だが、岸田文雄首相は国会で、核共有政策について「(『核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず』とする)非核三原則を堅持するわが国の立場から考えて、認められない」と述べた。議論を封殺するような答弁は疑問だ。
非核三原則の墨守で日本の安全保障が揺らぐなら見直しが必要になる。核共有も含め、日本をめぐる核抑止態勢が万全かどうか率直に議論する時期にきている。
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2022年3月1日付産経新聞【主張】を転載しています